身体のローテーションはほとんどの場合,「ターン始動期に次の方向へスキーを向けようとする意識」から起こります。
これがいけないという事はありません。過去には「フランス流スキー技術」として注目を浴びたことがあったくらいです。最近は「フランス流」とか「オーストリア流」とかの言い方はしませんが,リバース姿勢をとるのが「オーストリア流」と呼ばれていました。どちらかと言うと,ローテーション技術は小回りより,大回り系に適していると言われています。リバース姿勢をとったほうが「体の逆ひねりの力」を次のターンに利用できるので小回りに有利ですが,「ローテーション」は体の動作を先にターン方向に向けるという「からだ先行型」のターンなので,小回り系には不向きと言えます。どうしてもゆったりしたリズムになりがちです。
これが起こる原因の多くは「行き先に早くスキーを向けよう,一刻も早くターンしてしまいたい!」という欲求にあります。「雪とスキーとのコンタクトでスキーは向きを換えて行く」という基本原則を忘れなければ,ローテーションはほとんど起きません。ですから,これを矯正するには「自分の力でターンしようとするのではなく,雪の力でターンすることを覚えること」が大事です。また「外向姿勢の練習をする事」も有効な手段です。
「雪の力でターンする」には,先ず「荷重点(支点)」をしっかり意識する事です。今はスキー板やブーツの性能が良くなりました。荷重点にさえしっかり乗っていれば楽にターンするように出来ています。荷重点に意識を集中させ,スキーをちょっとだけプルーク状態にして,斜面を移動してみます。気持ちの上で「雪と仲良く」「雪にやさしく」といった気持ちで乗ってみることです。すると斜面を下に移動して行くことが苦痛でなくなります。いきなり急斜面に入るのはいけませんが,緩斜面から緩中斜面,中斜面……と少しづつ急な斜面にトライしてみましょう。すると,足裏に雪からの圧力がやって来るフィーリングが少しづつつかめるようになります。これが雪の力です。雪からのプレゼント,とでも言った方がイイかもしれません。この「雪のプレゼント」が解るようになればシメタ!ものです。この雪の力がスキーの持っている「回転しようとする特性」と相まって,スキーは方向を変えてくれるのです。「回転しようとする特性」とは「スキーの前後差」や「サイドカーブ」が持っている性質で,自分がスキーを回そうとしなくても回るように設計されている特性のことです。
「外向姿勢の練習」は,特にターン後半「迎え角」を意識することです。迎え角というのは「上体とスキーとの間にできるねじれ角」のことです。
ちょっと理屈っぽい話になりますが,回転運動をすると遠心力が生まれます。そして,それに拮抗する「向心力」があってその運動が持続するのですが,人間が円運動をする場合,上体がその向心力方向を向くと安定した運動が出来ます。……という事はスキーの場合には,スキーは円運動の円周上の方向を向いていて,上体が向心力方向を向いているわけですから,スキーと上体の間に「ねじれ」状況が生まれるわけです。このねじれ角のことを「迎え角」というわけです。
この練習には「ストックを二本,体の前に揃えて持ち,常に胸の向きと平行にそれを維持してターンする」ことで上体とスキーとの間の「ねじれ」を意識するのが良いでしょう。そしてターン後半,そのねじれを維持したままニュートラル(抜重)に入ります。胸の向きと足の向きが同じのが人間の体の自然な姿ですから,上体をそのままキープして雪の圧を解放してやると,そのネジレが元に戻ろうとして,スキー板がが上体の方向を向こうとします。つまり,ネジレ状態が解き放たれて,体とスキーが同じ方向を向くように働く…,ということです。今までターンしてきた方向と逆の方向にスキーが向きを変え始める訳です。そして,この「逆の方向にスキーが向きを換え始める」ということが,次のターンのキッカケになって行きます。なぜか?と言うと,モノには「慣性」という力があり,いったん動き始めたモノはすぐには止まれない,という性質があるからです。今までターンして来た方向とは違う方向にスキーがターンを始めます。これがターン始動の基本的なやり方です。体をローテーションさせなくても回転が始まるのです。
最近は「カービングスキー」の台頭で「迎え角意識」や「外向姿勢」は必要無い,という人も居ますが,私は厳然として,この二つの考え方や意識は必要だと考えています。
結論は「ターン後半,スキーと上体の間に,しっかりとねじれ現象を作り,この力を使って次のターンに入る」ことです。
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