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(スキー心理学)
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「 精神集中とリラックス  フリーダイビングの場合 」
File 0010
by ”Dr.N”  2001/08/08


  夏真っ盛りですね。オフの間は何かスキー以外のスポーツをされている方も多いでしょう。

  今回はスキーから少し離れて夏らしい水に関する話題。フリーダイビング(素潜り)競技についての話です。フリーダイビングは”精神集中とリラックス”という点で非常に書くべき事が多い競技なので紹介いたします。

  まず初めに、「プラナ・ヤマ」とフリーダイビングの関係を書いてみます。
  以前、フリーダイバーのほとんどが「プラナ・ヤマ」の呼吸法をトレーニングに取り入れている話を紹介しました。もちろん私もその一人です。なぜ多数の支持者がいるのかというと「プラナ・ヤマ」が水圧で押し上げられた横隔膜を再現している、という重大な要素があります。つまり、フリーダイビングでは腹啌をへこます度合が、そのまま潜れる深さにつながるのです。
  水深10mで肺の容積は半分、水深20mでまたその半分・・そして、水深32mで肺の収縮限界になります。それ以上の深さに潜る時、肺を守る為に内臓がせり上がってくるのです。
  また、鼓膜を守る為の耳抜きの空気を収縮限界の肺から搾り出さねばなりません。柔軟な横隔膜が無ければ肺が潰れ鼓膜は破れる、という重大事態に陥ります。現在のワールドレコードは150mだそうです。
  また、「プラナ・ヤマ」を行う事は、自律神経により無意識にしている横隔膜の上下動(呼吸)を意識的にコントロールする事につながります。人間は苦しいと感じた瞬間に、無意識に横隔膜の収縮が起こりますが、「プラナ・ヤマ」で不随意筋と呼ばれる腹直筋を動かす訓練をする事により、横隔膜の反応を遅らせる事が可能になります。横隔膜を意識的にコントロールできるという事は、無意識に息をするのではなく無意識の無呼吸状態を作り出す事を可能にします。ですから、「プラナ・ヤマ」はフリーダイバーのトレーニングには欠かせない非常に重要なエクササイズなのです。
  さらに、腹式呼吸である「プラナ・ヤマ」が自律神経の強化つながって精神安定をもたらす事はもちろんの事です。次に書く話は、あくまで「そういう世界がある・・」といった紹介ですので、絶対に安易に真似をしないで下さい。直接人命にかかわる話です。

  基本的にフリーダイビングとは素潜りで深さを競うスポーツなのですが、それ以外にもいろんなバリエーションがあります。
  その中に「スタティック」という、水中(主にプール)で息をどれだけ止めていられるか?という種目があります。「スタティック」は、心の乱れがそのままタイムに反映されてしまう、いわば精神集中の度合を確かめるような種目です。ワールドレコードが7分35秒、日本記録男子が5分37秒、女子が4分43秒。私の現在の記録は5分08秒です。
  肺活量の多さだけではワールドレコードの時間息を止める事は出来ません。苦しくないのか?という問いがよくあるのですが、私は「4分過ぎまでは全く苦しくない。」と答えています。私は肺活量は多い方ではありませんが、その間は呼吸の必要性を一切感じないのです。
  人間が水に潜ると「潜水反射(ダイビング・レフレックス)」という水棲哺乳類と同様の現象が起こり、その影響で血中の酸素分圧が上がり、2分台から3分台にかけて非常に満たされた気分を味わう事になります。それは母体の中で羊水に包まれて、へその緒から十分な酸素を供給されていた時と同じなのかもしれません・・。
  さて、5分以上水の中で何をしているのかと言うと、全身をリラックスさせ何も考えない・・心臓の鼓動に耳を傾けているだけです。上手くいけば、苦しさを感じる直前までの記憶が全く無いような「無の境地」の状態まで集中を高める事ができます。「無の境地」で潜るという事は、すなわち「肉体で潜らずに、精神で潜る」事であり、スキーに例えると「力のスキー」から「Letスキー」への脱却と全く同じです。
  しかし、その時少しでも心に雑念が入ると極端にタイムが落ちてしまいます。人の話し声が聞こえたり、水泳教室がバシャバシャやっていたらもうダメです。何かに気をとられる=何かを考えてしまう=脳の酸素消費量の増大=潜水時間の短縮・・となるのです。
  問題は、そうした時にどうしたら何も考えずにいられるか?です。難しいのは「何も考えない」事を意識した瞬間から頭の中がその事にとらわれてしまうからです。私の場合、集中できた時とできなかった時のタイム差は30〜40秒程あります。さらに、フリーダイビングの日本選手権に出場されている方の話では、大会の時は自己記録から約1分から1分30秒落ちになってしまうそうです。大会での精神集中がいかに難しいものか・・改めて認識させられる話です。
  ではどうすれば上手く集中する事が出来る様になるのか・・・?私の場合は「プラナ・ヤマ」のトレーニングをする際に、全ての肉体的な感覚から精神を切り離すようなイメージを心がけています。文章で表現しにくいのですが、心だけがそこにあるような感じでしょうか・・・。そうする事により外界から自分自身の心を遮断できるようになってきます。

  真夏という事で、水のスポーツについての精神集中について書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?しかし、間違っても安易に真似をしてブラックアウト(失神)なんて事のないようにしてくださいね。ブラックアウトの瞬間は全く予測がつきません。周りに誰もいなければそのままお陀仏です。

  それでは、何でも結構ですので、ご意見をお待ちしております。

(2001/08/08)

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