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【TOK】 … グッキーを語る 

  このページは,「マルティン・グガニック」の滑りに魅せられ,彼のように滑りたいと願っているスキー教師【TOK】が,彼を追悼し,思い出を語るページです。
  教師日記からの転載を含みますが,一部リライトしている所もあります。
  グッキーに対する「鎮魂」のページでもあります…。

☆ 教師日記から抜粋 ☆
 * 小回り
 * 大回り
 *
動物的勘の鋭さ
 * 【Letスキー】と似た感覚
 * スキーの基本は「外向傾」
 * 出会いと付き合い
 * エピソード … その1
 * グッキーの訃報を知る


              -------------☆★☆-----------
  約1週間…グッキーの思い出を綴って来ました。
  彼の言葉や仕草を思い出し書き込むことで,ようやく彼との現世での別れができたような気がします。
  多くの人が彼の死を惜しんでいます。私もそうです。でも,彼の意思…“スキー”に対する思いを,語り口を変えて皆さんに伝えて行くことが,彼の供養になることだと思います。
  精一杯頑張るよ,グッキー! 天国から見守っていてくれ!  (July/14/03)

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July/14/2003 (月曜日)  小雨
  さて,今日はグッキーの“小回り”について…。 グッキーは小回りについて次のように述べていました。
   『 小回りでは膝の動きが大事です。雪面に近い関節から使って順に身体を動かす意識が大事ですが,足首は動きが規制されるので一番大事な関節は“膝”になります。膝を使うということは素早くエッジを立てることができるということです。これができれば,効率の良い抵抗を作り出すことが可能になります。そのためには中間姿勢,もしくはもう少し深い姿勢の方がやりやすくなります。
  ターン後半,雪の抵抗で作り出した“圧”をどう開放するか?もだいじなポイントです。膝を使って角付けをし,そこで作り出した圧をどう使うか?ということです。その圧を次のターンのエネルギーに変えなくてはなりませんが,多くの人はこれが難しいようです。その原因は“圧は自分で作るもの,加圧するもの”という考えがあるからです。斜面を移動して行って,角付けをすれば自分で加圧しなくても圧は作れます。すると自分のポジションを抵抗を受けやすい場所に次々に変えて行く,という連続移動している線のイメージで小回りができるのです。でも,加圧に頼っているスキーヤーは,加圧をするたびに移動が止まってしまい,次の場所,次の場所…と点のイメージで滑ることになります。ですからターンが一回ごとに停止してしまい,エネルギーを伝えて行くことができないのです。
  また,クロスオーバーでは,圧を作るために膝がターン内側に入りますが,その膝を戻して,スキーをフラットにする意識が大事です。この時圧を減らそうとする必要はありません。できれば不必要な抜重はしない方が次のターン前半の雪面の捕らえのためにもいいのです。エネルギーの伝達もスムーズに行なわれます。
 小回りではターン後半のアンギュレーションも大事な要素です。下半身,特に膝に意識を持ってターンすれば上半身はそんなに動きません。結果的に上半身と下半身の間にネジレ状態が生まれ,次のターンに楽に入れるようになります。しかし,圧を自分の加圧で作ろうとしたり,スキーそのものを雪の力でなく自分の体力で回そうとすると上半身も回ってしまい,動作が素早く行なえず,回転弧の大きいターンになってしまいます。』

  グッキーの小回り…いつ見ても気持ちが良かったですネ!。(^I^) 脚が長いので懐も深く,ストロークも有効に使えて重心が上下にブレる事もほとんどありません。斜面移動が速く,しかも膝の使い方がうまいので,雪からの圧もものすごく効率よく作り出すことができています。その分雪面からのエネルギーも強いので,急斜面などではターン前半に雪面からスキーが浮いてしまう時がありますが,それは抜重動作とは異質なものです。ターン後半のエネルギーが矢のごとく次のターン外側へと伝達されているのです。
  グッキーも言っていましたが,彼の技術の基本は「雪の圧を受ける!」にあります。昨日の大回りでも解説したとおり,圧を自らの力で作り出す動作は,バランスを乱すことにつながり,ひいてはスキーの動きが不安定になり,疲労も増してしまいます。斜面移動で雪面からターンに必要な圧をもらう…ということができれば,あとは落下運動に身を任せ,重心の移動と雪面コンタクトがどうなっているか?という足裏の感覚に注意すればいいのです。自らの体力を使うことも少なくなり,雪との会話が充分楽しめる,合理的なスキーができます。まさにグッキーの滑りはこのことを証明している滑りだと言えます。見ていて安心していられ,美しさが感じられます。本当に気持ち良さそうなのです。
  小回り…という回転弧の小さなターンでは,雪面に近いところから身体を使う…というのも含蓄のある言葉です。回転弧が小さければその分素早い動きが必要となりますから,スキー板に近い身体の部分が動いた方が合理的です。ただ,ここで注意しなければならないのは,膝を使って角付けをコントロールするということと,圧を掛けながら角付けをする,ということには大きな違いがある,ということです。圧を掛けようとすると人間の身体の筋肉は外向きに働く「緊張筋」を使うことになります。でも,中間姿勢で,単に膝をターン内側に入れ,角付けを強めて雪の圧を強く受け止める…というのは,変化して行く圧の強弱を重心方向に伝えようとしますから,緊張筋ではなく「感じる筋肉」を使うようになるのです。「緊張筋」を使うよりも,「感じる筋肉」を使う方がはるかに「身体のリラックス」を生むことができます。グッキーの滑り全体に,バネのような身体の張りがあるのは,この感じる筋肉,「センサー筋」を使っていたからだと思います。グッキーはそういう意味で,もっとも感性豊かなスキーイングができるプレイヤーでもあったと思います。
  また,小回りでは絶対に必要な「上半身と下半身のネジレ」がうまくできないのは,自分でスキー板を回そうとするところにある…というのも,全くその通りです。自然に雪の上に立ち,斜面移動していけば,先ずスキー板が雪の抵抗を受けて回り始め,その力が足首に伝わり,膝,腰…と次第に上半身に伝わっていきます。この時バランスをしっかり取ろうとさえしていれば,上半身はそのままの姿勢をキープし,回り込む筈が無いのです。したがってターン後半では最も自然なアンギュレーションが現れ,このアンギュレーションという身体の絞りが,圧の開放と共に元に戻ることで,ニュートラル部分が形成されることになります。グッキーは,この圧とネジレの作り方も上手でした。ある時は矢のように素速く,ある時はゆっくりスローモーションのように,3次元的なエネルギーの貯めと開放が,実に見事でした。
  そのグッキーが語った言葉。「いつもミスの連続なんだヨ!はた目には完璧に見える滑りでも,滑り手はミスを感じながら滑っている。そのミスを修正しバランスをキープするために雪の上を移動しているんだ。」…身に沁みます。
 

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July/13/2003 (日曜日)  曇り
  さて,今日も私が感じたグッキーの「スキー技術」について…。今日は“大回り”がテーマです。
  昨日は大回りにも小回りにも共通の感覚について,グッキーが述べていたことを解説しました。今日は種目を大回りにしぼり,大回りで特徴的に現われるポイントを,彼が言っていたことをベースに解説したいと思います。
  大回りについて,グッキーは次のように語っていました。「大回り舵取り期での基本は外足での捉えで,私は普段は100%外スキーで雪面を捉える感覚で滑っています。そして角付けの切り換えでは,左ターンから右ターン,あるいは右ターンから左ターンへ,という感覚でなく,新しい圧を受ける場所へのスムーズなポジション移動をするようにしています。そのためにはターン後半で充分な角付けをして圧を受け,下から押し上げられる力を利用しなくてはなりません。そうすれば抜重要素の少ないベンディング的な滑りが可能になります。結果的に圧の吸収がスムーズに行なわれて,重心の軌道とスキーの軌道の入れ替えが滑らかに行なわれるのです。これを私は“オートマチッククロスオーバー”と呼んでいます。その後,ターン前半ではいかに雪面からの圧を受け止めるか?に意識を集中しています。大事なことは,ターン前半は特に雪面からの抵抗が弱い時期なので,外足の足裏に神経を集中させて,雪の抵抗を受け止めるのに最適なポジションを探すことです。ターン始動期が過ぎて舵取り期に入れば適度なアンギュレーション,つまり外向傾を意識します。カービングターンでもそうです。過度なアンギュレーションはスキーのズレを生みますが,全くアンギュレーションの無い滑り,特に上半身を内向的に使う滑りもバランス維持の上から適切だとは思いません。人によって体型や骨格が異なるので同じ姿勢になることはありません。自分自身の最適なアンギュレーションのポジションを見つけることです。この舵取りの場面では,雪面から最大の圧を受けることと,その圧に対してベストポジションを取り続けることです。」
  舵取り期での外足100%意識…これはグッキーが言うと本当に重みを感じます。私も全くそのとおりだと思います。この時,カービングターンにおいてもアンギュレーション,外向姿勢を意識している…ということも大事なことです。あくまで大事なことは「雪の抵抗が来る方向」であって,スキーが進む方向では無い!ということです。抵抗の来る方向はスキーの方向より僅かにターン外側なのです。そして,極めつけは「人それぞれの体型や骨格が異なるのだから姿勢が違って当たり前!」…という言葉です。ですから「形」を真似るのではなく,「意識やフィーリング」を真似ることが大事なのです。
  また,角付けの切り換えの局面では右から左,または左から右,というのではなくターン後半に蓄積されたエネルギーを次のターンにつなげていく感覚で滑っていることも注目すべきことです。私はこれをエネルギーのバトンタッチと言っていますが,雪からの圧を一気に開放してしまうのではなく,圧をキープしながら重心とスキーをクロスオーバーさせることです。グッキーは「吸収」という言葉を使っていますが,これは決して圧を軽くする,という意味ではありません。下からの圧を足裏で感じつつフラット状態に持って行くことなのです。ですからスキーが走り,自動的に重心とスキーの軌跡が滑らかな入れ替えを起すので,彼はこのことを「オートマチッククロスオーバー」と名付けたのです。
  ターン前半の意識でも,彼は非常に大事なことを述べています。それは「雪面からの圧をいかに受け止めるか?に意識を集中している」という部分です。彼の滑りをみるとこのターン前半の始動期では彼の長い脚がゆっくり伸びているように見えます。チョッと目には脚を伸ばすことで雪を押しているように見えるのですが,そうではないのです。「足裏に神経を集中し,抵抗を受け止める意識…」という言葉がそれを証明しています。グッキーは静かに圧が来るのを待てますから,,身体の動きは,下半身の足首→膝→腰…順になり,まことに安定しています。ところが,多くのスキーヤーは雪からの圧を無視して,スキーを回そう回そう,ターン始動させようと一生懸命になっているので,身体が,特に上半身が先に動いてしまいます。スキーそのものを回そうとすればするほど身体が先に動いてしまうのです。これではバランスの取れた安定したスキーができるわけがありません。
  彼が語ったひとことひとことに,その理論の合理性を感じます。しかも彼は,その滑りを演技して見せることのできるプレーヤーでもありました。口ではいっぱしのことを言うが,滑りは???の【TOK】とは大違いです。自分の体力の衰えはなんとも仕様がありませんが,一歩でも彼の滑りに近づけるよう最善を尽くし,彼が述べていたことを伝えて行きたい!…そう思います。


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July
/12/2003 (土曜日)  曇り
  グッキ-のこと…ここ数日この日記で彼を思い出しながら書き込むことで,少しづつ気持ちが癒えて来ました。そして,彼の滑りの本質を多くの人にお伝えするのが私の仕事…そんな風にも思えて来ました。彼の滑りの一部でも皆さんに解説できたら,彼のいい供養になると思っています。
     *****  
  さて,私が思うグッキーの「スキー技術」について…。今日は“感じる”がテーマです。
  大回りと小回りには,それぞれ違った技術的違いはあります。例えば大回りは小回りに比べ,その滑走スピードが速い分,身体の傾きが大きくターンの圧も強くなりますので,膝よりも腰や身体全体での捉え感が大事になります。一方小回りは滑走スピードが遅く素早い動きが必要なので下肢の使われ方が大事になります。でも,それは「ターン圧の違い」に対処するための身体の使われ方の差であって,そのベースには「どのような圧だからどう身体がそれに反応するか?どうバランスを取るか?」ということがあるのです。グッキーは「滑走フィーリング」,「バランス感覚」,「スピード感覚」を大事にしていましたが,特に「圧」,「重心」そして「中間ポジション」は大回りでも小回りでも重要なファクターであると述べていました。
  まず「圧」については,昨日の日記でも解説したように,「スキーヤーはターンしようとして自ら雪に圧を加えてはいけません。ターンするためにスキーを動かすのではないのです。斜面を上から下へ降りながら雪から圧を受けるのです。そして雪の力でターンさせてもらうのです。その圧の強さは角付けの度合いで決まります。私たちスキーヤーが行なうのはスキーに力を加えることではなく,スキーに体をあずけ,雪面からの圧を足裏で受け止め,その圧の強弱や方向を感じ取ることです。」と言っていました。
  グッキーは「重心」については,「滑走中は常に,いま自分の重心はどのような軌跡を描いているか?重心の位置がどこにあるか?ということを感じることです。これがバランスを取る上でのキーワードになります。」と言っていました。実はこれと似たようなことを今から30年近くも前に,エディ・ハウアイスというオーストリアの名スキーヤーが言っていました。エディの言った「雪があなたを回してくれる…」というセリフはまだ私の耳に焼き付いているのですが,一体何を言っているんだこの人は?と思ったものです。でも,グッキーも言っていた“重心”意識の大事さは二人に共通していることなのです。これは難しいことかもしれませんが,雪の圧を感じ取りそれがどのくらいの強さで,どの方向から来ているか?を判断するには全て“重心”が基点になる…ということなのです。“重心”から外向きか内向きか?,1時の方向かそれとも2時の方向か?,その圧は強いか弱いか?ということを感じ取ることは,全て“重心”を中心としていて,これとスキーに掛かる圧との釣り合いが取れていれば,バランスのいいスキーができている…ということなのです。
  「中間ポジション」は,結論から言えば「“重心”の位置を高過ぎもせず低過ぎもしない…」ということです。重心位置が高過ぎると,そこから脚を伸ばして圧を感じることができなくなりますし,低過ぎればそれ以上脚を縮めることができません。“重心”を中心として脚をアコーデオンの蛇腹の様に自在に使うには,高過ぎるポジションも低過ぎるポジションも適していないのです。でも,いつも中間ポジションが良い訳ではありません。凹の斜面などでターンに必要な圧が少なくなれば,脚が自然に伸びて雪の圧を探りに行くことが必要になりますし,コブや凸状の斜面に入れば,オーバーコンタクトににならないように,脚が縮まらなければなりません。中間ポジションが一時的に高いポジションになったり,低いポジションになったりするのです。でもこのような凹凸の斜面を通り過ぎたら,元の中間ポジションに戻ることが大事です。この脚が伸びたり縮んだりするその動きは,いかに雪面の圧を感じ取れるか?という能力に掛かっています。私はこの感覚を生徒さんに持ってもらうために足裏に“オレンジ”を意識してもらうのですが,「指導法はそれぞれ個人が独自に持つべきもの…」と言っていたグッキーが,具体的にどのような方法を取っていたか,語ることはありませんでした。雪からの圧を感じ取るための方法…この日記をご覧の方でグッキーにレッスンを受けた方…彼はどう言ってましたでしょうか?
  こうやって彼の言ったことを思い出していると,彼も感性の豊かな人だったんだナァー!とつくづく思います。“スキー”の楽しさの原点は,そういった動物的勘が研ぎ澄まされ,生き物としての生身の人間を感じるところにあるのだとも思います。


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July/11/2003 (金曜日)  曇り
  今日もグッキーが良く語っていた「スキー技術」について…。その中の“重心”と“雪の圧を受ける”ということについて…。
  【Letスキー】とか,雪からの情報を足裏で感じて滑るとか…いうことを私もレッスンで使っています。自分から仕掛ける…ということを極力しないで,雪の圧を利用して滑る,ということなのですが,実はグッキ-も言葉こそ違え同じようなことを言っていたのです。特に大回り系の滑りでは自分自らの力でスキーを回そうとしてしまうから,崩さなくて済むバランスを,わざわざ崩してしまう…と。また角付けの切り換えでは“重心”の移動軌跡を無視したクロスオーバーをするから急激な抜重動作が起きてしまう。もっと雪からの圧を利用すれば,雪面コンタクトの圧をあんまり変えない,バランス維持が楽なターンができるのに…とも語っていました。そのためには「斜面移動」ということを積極的に行う意識が必要なのですが,たしかにグッキ-の斜面を降りるスピードは速い!あれほど速く斜面移動ができれば,かなりの圧を作り出せるし,しかも重心の位置が前後左右にブレルことも少ない。…だからグッキ-が高速で安定した滑りができるのは当然!ということなのです。ハイ…。
  では小回りではどうか?エッジを急激に立て踏み込んでいるように見えますが……実は彼の意識では踏み込みは無いのです。エッ?と思われる方がたくさん居られると思いますが,自分では圧を加えないで,ただ単に角だけを立てているのです。斜面移動していて,ある角度からさらに角を立てれば,自分で雪に圧を掛けなくてもエッジの角度が立ちますから,その分雪からの圧が強くなって,雪から重心方向に向かって強烈に押し上げる力が掛かって来るのです。しかし斜面移動が少ないと,角付けの切り換えに必要な圧を作るには自分で雪面に力を掛けながらエッジを立てなければなりません。つまり重心からターン外側への力を掛ける必要があるのです。グッキ-の斜面移動の方法では外側から重心方向に向かう力が掛かるのにたいして,踏み込む方法では外側へ向かう力が掛かることになります。グッキ-の方法では雪の圧を受けて,スキーが腰の下に戻って来ますが,踏み込みではスキーが外側に逃げてしまいます。さて,この両者を比べれば,どちらの方がより素早く,バランスを維持しながら小回りができるか?…見当がつくと思います。グッキ-は,重心位置がスムーズなラインを通っているので,コブの小回りの滑りを見ても,重心位置が上下に動くことはほとんど無く,安定しているのです。ですから,コブの片足ノンストックなどという曲芸まがいの滑りも可能なのです。斜面を移動し雪の力でターンをしているからです。
  そういう意味で,グッキ-は【Letスキー】を演技できる最強のデモでもあったのです。


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July
/10/2003 (木曜日)  曇り
  今日はグッキーが良く語っていた
「スキー技術」についてお話したいと思います。今日は「外向傾」について…。
  彼は良く言っていました。「“スキー”で一番大切なことはエンジョイすること!」だと…。かれの口癖のひとつでしたが,これが彼のスキーに対する基本的姿勢だったと思います。そしてこの楽しいスキーをするために技術を磨くのだと…。「どうしてあんなに両足を広げて,低い姿勢で滑っているの?アレが楽しい?美しい?…」とよく質問されました。私も答えに窮して「美しくないナァー…危ないし…」と言ったら,「もっとコントロールコントロール…。スキーに乗ってないヨ…。乗らされてるダケ,危ないヨ!Tokはもっとスキーの大事なこと,ずらすことを教えるようにみんなに話さなきゃダメ。」と言われたものです。つまり外向傾姿勢の大切さを指導部長として教師諸君に徹底させなさい!ということです。切れのターン,カービングはその後の技術だと…。
  彼の口癖のひとつに「スキーは“バランス”」というのがあります。このバランス,実は雪から来る抵抗と斜面を落下して行くスキーヤーの重心との力が,うまく釣り合いが取れていることを指しているのですが,スピードをコントロールして安全なスピードで滑り続けるためには,低速にしようと思えば思うほどスキーの横方向からの力との釣り合いが必要になります。つまり外向姿勢です。そして,スピードを徐々に増して滑ろうとすればこ,の外向の度合いは少しづつ少なくなって来る。それは“バランス”を取ろうとするから…。だから,外向と言う意味が分かって,それを少しづつ少なくして行けるスキーヤーはバランスっ感覚の上に立ったカービングの意味が分かるし,とっさの時には外向を強くし,ズラシの要素を入れてスピードをセーブできる。ところが,外向のできないスキーヤーが角付けの傾け操作だけに頼った滑りは,“バランス”を取り続ける意識が少ないので自分からスキーを動かして操作しようとしてしまい,的確なスピードコントロールができない…ということになってしまうのです。彼は私たちスキー教師の研修会でも「外向姿勢」の大切さを良く説いていました。
  また,外足に乗ることの大事さも言っていました。「スキーが生まれてからこれまで伝えられてきた“外スキーでの捉え”は今も大事です。ボスは外スキー,内スキーはそれを補助するダケ。」…と。特に舵取りの場面では,内スキーに乗ることは大変なリスクを負うことになります。内足のくるぶしでは微妙な角付けのコントロールができないからです。それに対し外足くるぶしではかなりの範囲での可動が可能になり,微細なエッジコントロールができるのです。また外スキーは,回転半径が大きい分,物理的に遠心力が多く掛かりますから,この外スキーで雪面を捕らえる意識の方が合理的なのです。「内スキーも可能な限り利用するけれど,あくまで外スキーがボス。内スキーを意識し過ぎて外スキーの圧や角付けをキープできないようではダメ…」とよく言っていました。外スキーにしっかり乗り込んでスキーをするわけですから,「外傾姿勢」も自然に現れるのです。
  今思うと,彼の滑りの特徴は,このカービング全盛時代にあっても「外向姿勢」と「外傾姿勢」…つまり「外向傾」ということを大事にしていた…ということだ思います。


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July/09/2003 (水曜日)  晴れ
  今朝は白馬の稜線がきれいに見えています。
  またグッキーの話で申し訳ありませんが,彼は白馬のこの山並みを本当に愛していました。母国,オーストリアの景色とダブル…というようなことも,時おり話しておりました。この懐でこの冬の間,家族3人が約4ヶ月を過ごしました。彼の愛譲は,八方尾根の名木山で,生まれて初のスキーデビューでした。キット彼の魂は,この上を旋回しているに違いありません。山が見えて良かったネ!グッキー…。
     *****  
  グッキーは,1995年 第15回 野沢温泉・インタースキーオーストリアの代表デモンストレーター として来日していますが,その前にも日本に来ていると思います。確か1994年の冬,約1ヶ月日本を訪問し,その間一週間ほど八方尾根に滞在し,私たちスキー教師のコーチをしてくれたのを覚えております。たまたまその時私がスキースクールの役員で指導部長をしており,彼もまだ日本語が話せなかったので通訳を兼ねていろいろ案内したのが彼との出逢いでした。母国語のドイツ語を始めフランス語,英語が話せ,ビールも好きだというので,私の店にもよく来るようになりました。研修会でのそのダイナミックでスピード溢れる滑りはまさに凄い!のひとことでした。その後,私の所属するスキースクールの若手教師は晩秋になるとトレーニングのために,オーストリアに出かけていましたが,そこで一緒に滑っていただき,コーチをお願いしたりしました。本当に熱心に教えていただきました。彼も当時はまだまだ若く,本当にエネルギッシュな滑りを見せてくれました。
  数年前から,シーズンのほとんどを日本で過ごすことになりました。彼に教えを請いたい,というスキーヤーが多かったことを物語っています。そして彼の滑りはさらに洗練され,日本語も上手に話すようになって,通訳を必要としないオーストリア国家検定教師として活躍することになりました。日本全国,いろいろなスキー場で彼のレッスンを見かけることができるようになりましたが,八方尾根に来た時は「丸山具技男」という名前のネームプレートをつけてレッスンをしておりました。八方尾根スキースクールの名誉会員教師でした。「丸山」は八方の一番多い姓で,「具」は“伴われている人
つき添っている人”,「技」はスキー技術の技,「男」は男性…という意味で 『 スキー技術の本質を身につけた八方のスキー教師 』…という事を込めてのネーミングでした。
  彼の“スキー”に対する姿勢は,彼の口癖でもありましたが,「楽しい!」ということでした。そして技術上の特徴は「雪の圧を受けてターンする!」ということでした。私が常日頃思っている【Letスキー】との共通点があまりにも多く,「彼の滑りとその理論」は私にとっても,その表現方法などで大変勉強になることが多かったのです。
 


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July/08/2003 (火曜日)  曇り
  昨日はどことなく脱力感を感じながらの一日でした…。グッキーのあの笑顔がちらついて,そして残された幼い子供と奥さんのことが思い出されて,たまりませんでした…。日本時間で今日8日の午後9時から,葬儀が始まるとのことです。その時間になりましたら,黙祷をささげたいと思います。
  グッキーは,あの明るさと人懐っこい性格,そしてスキー技術と指導法の素晴らしさで,多くのスキーヤーを魅了してきた人だけに,昨日のスキー関係の掲示板では多くの方が彼の死を惜しんでおられました。また,私の昨日のこの日記が「雄首冬獄」さんによりSGの掲示板で紹介されたものですから,アクセス数も一気に上がり,2125名の方の日記への訪問がありました。そのくらいグッキーの人気が高かったといまさらながら,彼の人徳を偲んでおります。
     *****  
  今日から数日間は,グッキーを偲び,私と彼との交友エピソードや,彼が私に語ってくれたスキー技術論を紹介したいと思います。
  今日は先ず彼についてのエピソードから…。

  【※1】 2003シーズンの3月初旬,「パトリック・ヴァルターのスペシャルレッスン」が予定されていました。ところがパトリック・ヴァルターが2月に怪我をしてしまい,オーストリーに帰ることになってしまいました。すでにスクールの行事として予約が入っていた状況で行事のキャンセルは難しい状況になっていました。しかし,このことを伝え聞いたグッキーは,「せっかくオーストリーのデモのレッスンを受けたい!ということで予約をしていただいたのだから,もし私がヴァルターの代役ができるなら,日程を調整してレッスンを担当したい!」と申し出てくれたのです。お客様に問い合わせたところ皆さんが「グッキーが代役を買ってくれるというのなら,ヴァルターでなくても構わない…」ということで,代替のレッスンをしていただいたのでした。

  【※2】 私の店「メルツェン」のドアを開けるなり,カウンターでお客さんの相手をしている私の所へツカツカと寄って来て,「Hi,Tok!“そのまんまビンビン”ちょうだい!風邪気味,風邪気味…」と言うのです。“そのまんまビンビン”というのは,ニンニクをひと株そのまま素揚げにし,その後オーブンで焼いて,塩を振ったものなのですが,彼はコレが大好物でした!。モチロン風邪気味のときなど効くのですが,普段でもビールにはコレが合う…と,ひと株ぺロッと食べてしまうことが良くありました。今シーズンも,「グッキー歓迎Party」の席で奥さんとお子さんの前で美味しそうに食べていました。これから以降,「そのまんまビンビン」を“グッキーのビンビン!”と変えることに決めた【TOK】です……。ヒョットしたら…ビンビンを口に入れてあげたら,息を吹き返すかな?…。

  【※3】 今シーズンから子供さんのスキーレッスンを充実させるため,「キッズスクール」を新たに企画し実行に移しました。昨年までの「ちびっこ教室」とは様変わりなので,12月初旬から中旬に掛けて,その指導法などの研究も逐次行なっておりました。その時グッキーが,「私にぜひキッズレッスンの研修会の講師をやらせて欲しい!勤務料金とかは要らない。子供達への興味を失わせない指導は本当に大切だ!」と教師研修会の講師を買って出てくれたのです。紐を使ったり,トレーンのいろいろなフォーメーションを紹介してくれたり…。その成果は着実に現れ,多くのちびっこが“スキー”の楽しさを知ることができたのでした。


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July/07/2003 (月曜日)  雨
  5日夜,みんなで私をからかっているのでは?と思えるほど悲しいニュースが携帯から…入って来ました。スキースクールに何度も教師として来てくれ,素晴らしい技を見せてくれていたグッキーが亡くなった…というのです…。
  ホントに悲しいニュースです。それは同じスクールの教師仲間,“T,M”からの涙の電話でした…。「グッキーが亡くなった…滑落したらしい…」という内容でした。「滑落…?どういう???」という気持ちを抱きながら大阪から帰って来ました。
  昨日白馬に戻って,その内容が少しづつ分かりました。現地時間の4日だと思うのですが,彼の家の近くの山の上にある山荘で,彼の友人の誕生パーティーがあったらしいのです。そのパーティーが終わって多くの人はそのままそこに泊ったらしいのですが,グッキーは家族の中にチョッと体調の悪い方が居られて,それが心配で夜道を下山したとのことです。安全なルートを辿れば良かったのですが,どうも先を急いでいたのか近道を選んだみたいです。そして,あくる朝,滑落して短い生涯を閉じた彼の遺体が発見された…ということです。
  ベルント・グレーバーの時もそうでした。にわかに信じがたいのですが,マルティン・グガニックが天国に召されたのは事実のようです。誠に残念です。……全く言葉もありません……。今自分にできることは,涙を浮かべて,キーボードを叩き,彼の冥福を祈るばかりです。「グッキー!!!早過ぎるよ…。あまりに…」

  今日,スクールを代表して都合のつく教師2名が,現地に向かいます。私の思いも,そして皆さんのグッキーへの思いも,一緒に持って行ってくれるように頼んでおきたいと思います。