今週のコラム “ 用具とフィーリング ” ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
いろいろなホームページやスキー雑誌などで“スキー技術”について論じて
いるのを目にします。それぞれ貴重な体験を元にした技術論を展開されていて,
私も大変勉強になります。
ところで,私は幸運なことに,縁あって過去十数年,「スキーテスト」の仕
事をさせてもらったことがあります。
私がスキースクールの教師になって3,4年経った頃,skie○誌が大々的に
「スキーテスト」なる企画を立ち上げました。実際の雪上での滑走フィーリング
と,スキーの持つ物理的特性が,どのような関係にあるのか?をレポートするも
のでした。最初この企画が出されたとき,八方○根スキースクールにその実走テ
ストを担当して欲しい…,という要請がありました。私がたまたま理工系の出身
で,スキー技術などで理屈っぽいことを言っていましたから,「お前ヤレ!」と
いうことになり,それからテスタートして数百台のスキーを試乗する機会に恵ま
れたのでした。
実は,今思うと,この”スキーテスト”がキッカケとなって「スキー技術や
指導はどうあるべきか?」,「どう楽しんだらイイのか?」ということをより深
く考える事になりました。私にとって大きな転機となった”スキーテスト”でし
た。
これらの”スキーテスト”を通じて私が思うことは,どういうタイプの,ど
ういう性質の板やスキー用具を使っているかで,そのフィーリングが全く異なる
…ということです。同じようなスキー運動をしようと思っても,板の特性によっ
てそれができたりできなかったり…。また板の特性が優れていて,自分でも信じ
られない離れ技的スキーができたり…。
私のスキー生活の中で,大きなインパクトとなったスキー板があります。
『 エランRC05 』です。これについてお話したいと思います。
スキーテストのある日,W杯でその頃連戦連勝のステンマルクが履いてい
るというスキー板「ELAN RC05」をテストする時が来たのでした。
どんなスキーかとワクワクしながら,そのスキーに履き替え,リフト乗り場
までほんのわずかの距離,約10mを移動したのです。ほんのわずかの距離を滑
っただけで,あるフィーリング,「このスキーは柔らかいな!」とか「こりゃ良
さそうだ!」とかのフィーリングが伝わって来ます。直感が働くのです。
ところが……,このスキー,トップがおそろしく軽いのです!。アレレ…と
その第一印象にまず驚きながらリフトで終点まで行き,ゆっくり滑り始めました
……。案の定,スキーが回ってくれません!。行けども行けどもテールの捕らえ
が強過ぎてトップがターン内側に入って来てくれないのです。テールを外側に押
し出そうにもテールが硬過ぎて,思い通りにはズレてくれません!。いつの間に
か,性格などつかめないまま下まで着いてしまいました。困ってしまいました…。
ステンマルクが履いて,良い成績を残しているスキーの評価が,これでは「ダメ
スキー」との判定を下さなくてはならなくなります……。テスターとしては,な
んとか乗りこなす方法を見つけだし,「このスキーはこういう風に乗れば生きる
…」という風なコメントを残さなくてはいけません。そこで,どう乗ったら良い
のか探る為,もう一本リフトに乗って上まで行き,再挑戦です。今度はトップに
荷重したり,テールにしたり,いろいろやってみました。
荷重点をやや後ろにし,かかと気味にするとターンがしやすいフィーリング
がつかめました。そこで「かかと荷重で,つま先をターン内側方向にひねる」様
にして滑ったみたのです。そしたらどうでしょう,いままでコントロールできな
かった板が,魔法の様に回るではありませんか!。驚きでした!。これほど乗る
位置でスキーの扱いやすさが違うスキーに,かつて出会ったことはありません。
さらに,その様にして乗ると,テールが外へ出て行かない分,ズレが少なくなる
ではありませんか!。そして,スキーが前に前にと出て行くのです。切れと走り
が抜群なのです!。ステンマルクの勝てる訳が解かったような気持ちでした!
そこで気が付いたのです。「かかと荷重+つまさきヒネリ」の重要性が……。
それまでの「母子きゅう荷重でテールを外へ押し出す滑り」はこのスキーでは通
用しない…と。
20年も前の話ですが…,このスキーに出逢えたおかげで,今のスキー教師
としての私があると思って感謝しています。(^I^)
こういうことを経験してみて,「スキー技術」を語る時,どのような用具を
使い,どのような斜面条件で,どれくらいのスピードで滑走している時の技術な
のか?…ということを念頭において議論しないと,大きな食い違いが出る可能性
がある…ということに気付きました。特に使用しているスキー板とスキーブーツ
による滑走フィーリングの違いは予想以上です。滑走フィーリングが違うと,論
じる技術論にも違いが出てしまいます。
最近のカービングスキーでは,どれくらいの「R」の板を使っての技術か?
ということがひとつの目安となるでしょう。「R=22」の板と「R=15」の
板ではまるでその滑走感覚が違ってきます。エキストリームなどでは,本筋から
その技術が違う!と言っていいと思います。
皆さんが「スキー技術」の解説を読むとき,ぜひこのことを念頭において読
んでいただきたいと思います。そうすればおおきなかん違いや,議論のボタンの
掛け違い…といった弊害は少なくなるでしょう。(^I^)
2001/09/10
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