フォームと技術 

(メルマガ No.0006 08/13/01より)


 “フォームと技術”       ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

  先日あるスキー雑誌を見ていて思ったことがあります。それは「フォームを優先し過ぎた技術論」ということです。
  スキー技術を解説するとき良く使われるのが「連続写真」です。「○○コマ目の写真は両足均等荷重になっていて,内スキーの使い方がうまい!」とか「ターン前半,上体を次の進行方向に回しこんでいるのが△△コマで解ります…」という解説を良く目にします。
  これを読んで写真を見た読者の大半は,「ホホー…なるほど,そういうことか…」と妙に納得してしまうのですが,チョット待ってほしいのです。ホントに上体が回りこんでいますか?カメラマンの立ち位置でそういう風に見えているだけ…ではありませんか?均等荷重というけれど,本当に両スキーが同じくらいたわんでいますか?右から左,あるいは左から右への荷重移動の一局面で,たまたまそのカットだけが同じくらいたわんでいるのではありませんか?
  私の見るところ,雑誌の技術論のみならず,スキー教程の一部にさえ,その主張を展開するのに都合のいいように写真を使っている場面がけっこうあるように思います。特に,一連の流れのひとコマでしかないカットを取り上げて,それが全てであるかのような解説はいただけません。

  「姿勢」それに「形」というような表面上現われる「フォーム」は,ターンフィーリングや滑りの質が全く同じでも,使用している「スキー用具」,各個人の「骨格」や「筋肉の強さ」によって大きく違ってきます。親子,兄弟のスキーフォームが互いに似ているのは,骨格や筋肉のつき方が似ているからです。ですから,上手な選手の「カタチ」を真似ようとしても,それは無理なことだし,もしそれができたとしたなら,そのときの滑走フィーリングはお互い違うものだ,ということになりかねません。
  大事なのは「雪とスキーの関わり具合」であって「フォーム」ではないのです。例えば,内スキーの使い方を学ぼうとして,ターン前半,内スキーのヒザを回転内側に入れようとしてみます。ヒザ関節が柔らかい人は,スンナリそれができ,両スキーでバランス良くターンをコントロールできるかもしれません。しかし硬い人はそれをしようとすると,外スキーの捕らえがおろそかになり,一気に内スキーへの荷重が増して,シェーレン状になってしまうでしょう。関節の柔らかさや大体筋の強さを無視したフォームへのこだわりがもたらした結果…といえます。

  人の滑りを評価するときの注意点はまさにここにあります。「フォームを見る」のではなく「雪とスキーのコンタクトを観る」ということが大事なのです。スキーの技能テストでも「フォーム」でその人の技能レベルを評価するのは大変危険なことです。その人の持つ身体的特性と用具の特性がどのように生かされ,マッチングしているか?という視点での評価が求められます。
  特に最近カービングスキーが全盛となって,スキーそのものに働きかけをする必要が少なくなってきている状況では,百人居れば百通りのフォームが出てきて当然です。スキー用具と身体の特徴の組み合わせで,それにかなった合理的で最適な滑りができ上がるからです。ある意味では「スキーフォームの個性化」と言っていいかもしれません。

  こういう状況下で,一連の連続写真から引き出した「特定のコマ」はどういう意味を持つのでしょう?たまたまあるスキーヤーが,たまたまある雪の状況下で,たまたまあるスキー用具を使ったときに,撮った写真…程度のことでしかないのかもしれません。
  有名選手のフォームを技術解説に使うことの危険性がここにあるような気がします。

  これからスキー雑誌が店頭に並び,スキー写真を見て,来るべきスキーシーズンを頭に思い起こすのはホントに楽しいことですが,スキー技術解説を読むときは,くれぐれも鵜呑みにしないよう,注意してほしいと思います。(^I^) 

2001/08/13

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