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(スキー心理学)
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「 プラナ・ヤマ 」
File 0008
by ”Dr.N”  2001/07/23


  さて、前回まで5回にわたって「スキー道」「あがりの対処法」から「メンタルトレーニング」までを書いてみましたが、今回は、私Dr.Nがメンタルトレーニングの上で、到達したい目標のようなものを書いてみたいと思います。
    それは、「プラナ・ヤマ」というヨガの呼吸法を会得する事です。さすがにこの言葉、ご存知の方はいらっしゃらないでしょう。何か怪し感じですか? でも「ゆ×」より生理学的解明がされている事なんですよ。

  私がこの呼吸法を始めて知ったのは、フリーダイビング(素潜り)のトレーニングの延長上でした。皆さんの中には、ジャック・マイヨールというフリーダイバー(素潜り)の名前をご存知の方もいらっしゃるでしょう。
  映画「グランブルー」のモデルとなった人物で、人類初の素潜り100mを達成した人物です。(ちなみに、本物のマイヨールは映画のイメージとは違い、おしゃべりです)
  彼が潜水時間を延ばすために取り入れたのが、この「プラナ・ヤマ」等のヨガの技法や座禅などでした。マイヨールの後、世界記録を打ち立てたフリーダイバーは全て「プラナ・ヤマ」を実行しています。

  プラナ・ヤマを簡単に解説すると、まず、心拍にあわせてゆっくりと深く呼吸をします。そして、息を吐ききった時に息を止め、横隔膜を肺の方へ引き上げて行きます。訓練を積み重ねると、あばら骨の内側まで腹啌をへこます事ができるようになります。この時の内臓の状態というのは、フリーダイビングで深い所に潜った時に起こる状態、つまり、水圧の影響で肺が縮んで内臓が横隔膜を押し上げた状態と同じです。要するに水中で起こる人体の肉体的変化をあらかじめ陸上で作り出しているわけです。

  さて、あくまでフリーダイビングのトレーニングとしてプラナ・ヤマを知った私ですが、詳しいトレーニング方法もわからず、その後、数年間は特に気にもとめていませんでした。
  しかし、ある日、フリーダイビングと全く関係ない所でプラナ・ヤマに遭遇します。それは、あるスキー雑誌に掲載されていた、元ワールドカップレーサーのR.ペトロヴィッチの特集記事でした。デビューの年、彼は新人レーサーに似合ない異常に落ち着いた滑りをしたそうです。
  スタートハウスで見せる彼の表情やしぐさは、精神学者から見て「トランス状態」にあるかのような独特のものだったとか・・。実は彼の落ち着いた滑りを支えているのが、ヨガの指導者である母親の影響で実践していたヨガのトレーニングだったそうです。
  記事には「彼は左右の腹筋を別々に動かす事が出来た」という一節があり、ペトロヴィッチがプラナ・ヤマのトレーニングを実行していた事が汲んで取れました。
  これを読んだ私は、プラナ・ヤマが特定の競技に限らず、広く精神集中に有効なものではないかと感じ始めたのです。

  さて、1年程前ですが、あるテレビ番組で格闘家のヒクソン・グレイシーのプライベート・トレーニングが紹介されていました。異種格闘技戦を含め400戦以上無敗を誇るヒクソン・グレイシーが、どんなトレーニングをしているのか?学生生活を格闘技で過ごした私にとって非常に興味があるものでした。
  テレビに映し出された映像とは・・・

  「サンタモニカの高級住宅地に住むヒクソン・グレイシー。軽めの朝食の後、自宅の裏庭で朝のトレーニングを行う。裏庭と言っても草木が生い茂る自然の雰囲気がそのままに残っている場所である。木立の影に設置してある鉄棒に特殊な器具で逆さまにぶら下がり、ストレッチを行う。その後、彼は地面に敷いた毛布の上であぐらをかいて呼吸法を始めた。
  静寂の中に取材のカメラのシャッター音だけが聞こえる。無呼吸状態で腹筋を動かしているのだ。
  腹筋は上下左右に生き物のようにうごめいている。そして、内臓がなくなったかの様な状態まで腹啌がへこんでいた・・・。」

  早朝、彼が自宅に裏庭で行っているそれは、まさしく「プラナ・ヤマ」がベースの呼吸法でした。ヒクソン・グレイシーの試合前の精神集中には定評があり、それが「プラナ・ヤマ」等の
呼吸法によってもたらされている事に疑いの余地はありません。
  偶然とは言え、私の経験したスポーツのトップクラスの選手がやっている事です。こうなると、もう”やるっきゃない!”の状態です。フリーダイビングの書籍やヨガの入門書を探し回り、現在に至ってます。

  さて、私Dr.Nの現状ですが、勉強した甲斐あって、ほぼ「プラナ・ヤマ」が出来るようになりました。
  しかし、それは肉体的な話であって、そこから精神や自律神経の面での効果が現れてこなければなりません。適切な表現ができませんが、まだまだ「会得」した状態ではないと思ってます。境地に辿り着くのは何年先の事でしょうか?
  しかしながら、少しづつ効果を実感しているのは確かです。何かいらいらとしている時などにプラナヤマの呼吸法を10分ほど行うと、「あれっ、何にいらいらしてたのかな?」と思えるぐらい全身がすっきりしている事があります。本当に「何だったっけ?」って感じです。
  基本的に「プラナ・ヤマ」は体内調整作用を目的として行うものです。腹式呼吸法であるため、自律神経を刺激し精神的安定がもたらされる事は簡単に想像がつきます。そういう点では、「プラナ・ヤマ」は究極の自律神経訓練法なのかもしれません。

  結論「プラナ・ヤマ」はその怪しげな言葉の響きとは裏腹に、フリーダイビングのトレーニングとして潜水医学の面での効果は既に立証済みである。また、有名スポーツ選手の例からも明らかな様に、精神的安定をもたらす効果も大きい。ただし、会得するのに時間がかかる為、一般的に普及していない。

  それでは、ご意見をお待ちしております。

(2001/07/23)

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